ユーザーレビュー一覧(全6件 平均:3.0)

「「スキャンダリズム」による思考を促す書」 2006-11-19
レビュアー:野火止林太郎(45人中36人が参考になったと回答)
インタビューとフランス暴動など時事論考を併せた新書で読みやすい。
書中であるように、ジジェクは東西冷戦終結後の揺り戻し的な共産主義者の復権で現在の好ポストを手に入れたと吹聴している。執筆に専念でき、研究所など(シンクタンクみたいなもの)への名義貸しだけで収入が得られるということだ。
そもそもこの人はいったん話し出すと饒舌なのであろう。前後の整合性にかける話も散見されるが、非常に重要な視点も多く出されている。
そのひとつが、『厄介なる主体』で詳述されていたデカルト擁護。
二つ目が、アカデミズムおよび運動家にまで拡がっている理論軽視の実用主義への反論。「使える」学問の、実践的な知ヘの社会的要請が、NPOなども含めた社会改善運動の「即時に運動を起こさなければ」という存念と手を携えて、理論を貶めていく傾向に警鐘を鳴らしている。「我々がこうしている間にも飢えて死んでゆく子どもたちが居る」という脅迫をとる彼らのメッセージの欺瞞性がイデオロギー的にセットされており、これは我々が主体的に思考することを妨げているとする。「もっと理論を!」というこの指摘の重要性は省みられるべきだ。
これは当然大学を頂点とした教育に対しても大切な視点を提供する。
大学が象牙の塔に閉じ篭って云々の批判を根底的に跳ね返すものである。ジジェクは閉じ篭れと言っているのだ。実世界の経済的課題に対する実用的知見をもたらさなければならないという大学への要求と大学側のその強迫観念は、「大きな災いを引き起こす」と断言さえしている。そしてさらにジジェクは「知識の次元においては何かを創造するためには、目的を持っていては駄目」だという。
我邦の国公立大学は独立行政法人化された。これは多分に一般国民の「民意」を背景としている。学問の実用主義、成果主義、目的主義とともに、公務員と公共機関のリストラが目指されていることは明白である。しかも大学教員たちのさしたる抵抗もなしにこれがなされたように見える。これに抵抗しなくて何が学問かとも思われるのだ。
本書は、ジジェク自身が書中で述べているように問題含みの表現も多々見られる。
グロバリぜーションに絡んだ国家のヘーゲル的擁護や、ユーゴ空爆に対する支持などがそれだ。これらは特に左派からの反論を巻き起こすであろう。なかんずくジャナーリスト左派からの抵抗が強いと思われるのが後者のNATOに関する議論だ。またフランス暴動での時事論考も問題なしとしない。彼らの暴動をヤコブソンの意味論で説いてファシズムに比している部分などだ。
そしてこれらはおそらく非生産的な左派内の醜態的な論争を呼ぶことになるだろう。
ただ、以上の時事的論説・発言は軽率なものがあったとしても、ジジェクの戦略である。またそのように発言している。
こうした問題を含んでいるにしても、今日の世界大の諸状況に対する視点の多くは得がたいリアリティとアイデアに満ちている。ヒステリックな反論よりは、各人の熟考を促すものとなって欲しい。

「話を引き出す力」 2006-12-09
レビュアー:チャックモール(19人中10人が参考になったと回答)
その若さで、あのスラヴォイ・ジジェクと渡り合う訳者の岡崎氏には感嘆を禁じえない。
正直、対話になっているのかというと、ジジェクが一方的にしゃべっているだけではあるが、やはりそれも著者の「話を引き出す姿勢」がもたらしているものだろう。
ジジェクの論については、訳者自身も全面的に賛同しているわけではない、というが、実際読む人ごとに評価はことなるだろう。
私は、賛成6割反対4割、といったところ。
ただ、内容云々以前の問題として、訳文のこなれてなさ(特にインタビュー部分)が気になってしょうがない。
ジジェク自身の表現にも問題があるのだろうが、それをうまく汲み取ってこその翻訳であるはず。
途中で読むのが苦痛になってきてしまった。

「ポストモダンの思想、あるいは死相」 2006-12-16
レビュアー:アンドロメダ星人(19人中8人が参考になったと回答)
かつてアメリカの偉大な文学『白鯨』の中で、エイハブ船長は自らの悪の分身ともいえる巨大な鯨モービイ・ディックを執拗に追い続けた。そして今日アメリカは自らが育てたイラクというオブセッション(強迫観念)にとりつかれている。フロイトが『モーセと一神教』で述べたように、あらゆる国家・共同体は、かつて「抑圧したものの回帰」に絶えず恐怖を感じている。
私は、今日のグローバル資本主義の下で、国民国家が揺らぎ、近代以前の「抑圧されたものの回帰」が起こり始めてきているように思う。その根底の無意識ではあらゆる葛藤・矛盾・闘争が渦巻いている。国家はそれを何とか押し止めよう・抑圧しようと強権支配・管理システムを整えようとしている。中国やロシアではかつての「帝国」(王朝)が地面から再びせり上がってきている。
そして私たち自身は自らの無意識(エス)の「死の欲動」(攻撃性)を制御できなくなりつつある。ジジェクをはじめとするポストモダンのイデオローグはこの状況を鋭く認識している。そして今行動よりも理論が必要とされていると強調する。この本書『人権と国家』は、日本の一市民として異論も含めてこの問題を考えさせる多くの刺激的な毒を盛られた一冊である。

「ジジェックの発言の真意」 2008-01-14
レビュアー:九月(4人中2人が参考になったと回答)
ジジェクの論文、
「パリ暴動と関連事項にまつわる、物議を醸す考察」と
「人権の概念とその変遷」の二本と、
彼の自宅でのインタビューが収録されています。
ジジェクの著書を読むのは初めてなので、
予定調和的に自分が予想する論理展開とかなり異なる
彼の論理展開に驚かされました。
特にインタビューでの発言に。
ただインタビューの中で、自分が表明した意思や論文は
誰かの思考を促すために行ってたことで、
自身のほんとうの考えとは異なる、とあり
どこまで彼の発言を間にうけていいのかも考えさせられました。
繰り返し、彼が述べているように、
人が考えるためのエポックメイキングなのかもしれませんが。。。

「アンチの立場だということだけがわかる」 2007-12-28
レビュアー:shibchin(11人中2人が参考になったと回答)
レイ子さんがスロベニアの哲学者(有名な人らしい)にインタビューした対談と、哲学者の短い文章2本を交互に合わせたもの。
内容はかなり空虚だった。『人権と国家』について書いているつもりなんでしょうが、哲学者の引用や、映画の意味論みたいな話が続いて、そもそも、何を論証しようとしているのか不明。読むに耐えずに、途中からはパラパラ。対談も、基本的にはアンチグローバリズムの立場なんでしょうが、突然、鎖国が良いと言ってみたりするんだけど、イメージ以上のものではない。結局、「アンチ」の立場で刺激的なフレーズを、衒学的なお化粧を施して並べているに過ぎない。こんなんで若い人を騙しちゃいかんよ。まあ、騙される方も騙される方かもしれない。レイ子さんの評価も急落中です。
ひょっとすると、プレップスクール的教育の欠点が見えているのかもしれないとも感じた。学校内でのディベートでは衒学的なお化粧(つまり、難しそうな哲学を引用すること)が結構武器になりそうに思える。特に、若い人の間では。それに接しているうちに、その価値観にどっぷりと浸かってしまうのではないだろうか。かの国の教育の実際にはなかなか触れられないのだが、レイ子さんという窓から見えることは、いろいろと教訓的で参考になる。