ユーザーレビュー一覧(全8件 平均:5.0)

「問題は世界が見て見ぬふりをしていること」 2006-04-29
レビュアー:鈴屋飯依比古(32人中22人が参考になったと回答)
貧困とは、特に飢餓とは人間が生態学上の限界をもった生物であることを示しているに過ぎない。爆発的に増え続ける世界人口の約6分の1が経済発展の切っ掛けすら掴めないで居る。
では、何故貧困は無くならないか?それは人間の生存条件が他の生物と同様にまたそれ以上に複雑だからだ。単なる援助が貧困からの脱却どころか貧困への引き金となることすらある。著者は、世界全体の貧困からの脱却のために、家族・世帯・インフラ・ジェンダー・民族・人口・環境・気候・経済・財政・地勢・政治等々のさまざまな水準で互いに連関する条件を大項目7、小項目38のチェックリストにして示している。
経済発展を既に終えた先進国では今急速に高齢化少子化が進む。直接の言及はないが、経済発展と少子化(人口抑制)がセットにできることが経済学的に十分普遍的なら、経済発展は地球環境の視点からも寧ろ普遍的な目標となるだろう。経済発展=人口抑制が地球の許容値を超えない進度で実現できるかという課題である。
貧困の克服がいずれにせよ物の交換を世界大に隈無く実現することに他ならない以上、そこにはよりよい言葉の交換が無条件に含まれているわけでも神の問題の解決が前提とされているわけでもない。発展のために非民主的な聞きづらい言葉を聞き続けねばならないというのかもしれない。貧困の克服が民主主義ともセットであるという視野の広さを持っておく必要がある。少なくともこの問題の解決は人類の名誉と自尊にとって成し遂げられるべき第一の課題であること、そのための勇気を与えてくれる書である。

「貧困根絶へ向けての道をはっきりと指し示す全人類希望の書」 2006-09-22
レビュアー:本格派(29人中22人が参考になったと回答)
帯に書かれた賛辞「おそらく世界で最も重要なエコノミスト」「世界で最も重要な100人の指導者の一人」という言葉は嘘ではない。
この本は、客観的なデータに基づいて冷静に導き出された、世界中の貧困をなくすための処方箋が書かれた、非常に内容の濃いすばらしい本である。
本の前半では、貧困に関するあらゆるデータが提示されている。データからいろいろなことが見えてくる。
「経済開発の梯子の一番下の段にさえ足を掛けることができれば、少しずつではあっても開発の梯子を上ることができる。しかし、最貧国ではそれさえする余裕がないため、いつまで経っても開発の梯子を上ることができない」ということ。
「ここ200年における世界の経済発展を見てみると、富裕国と最貧国ともに経済成長を遂げている。程度の差こそあれ。富裕国が富んだ分だけ最貧国が貧しくなった訳ではない。つまり、富裕国は搾取をやめても充分に豊かであり続けることが可能だ。」ということなどである。
さらに著者は、最貧国を貧困から抜け出させるために、臨床医学ならぬ「臨床経済学」というものを提唱している。医者が患者をみるときのように、患者に関する出来る限りのデータを集め、最適な処方を行なうための学問である。
その後は、実際に著者が経済顧問として関わって来たボリビアやポーランドなどの国々での経験が語られるが、これらの実体験から前述の処方箋を導き出しているのである。
この本に書かれていることは単なる理論ではなく、現実のあらゆる条件を考慮した上で対策は講じられるべき、という考え方からも分かるように非常に現実的で効果のあるものである。
2000年に行なわれたミレニアム会議で、国連の全加盟国の賛成で採択された、2015年までに極度の貧困を半分にするというミレニアム開発目標は決して不可能なものではない、ということを感じさせてくれる、希望に満ちた、我々人類が捜し求めていた本である。

「ほっとけない、世界の貧しさ」 2006-06-17
レビュアー:antibush(32人中18人が参考になったと回答)
2005年1月のダヴォス会議で最も感動を呼んだのは世界企業の経営者や各国首脳の演説ではなく女優シャロン(氷の微笑)ストーンのスピーチー「今、(タンザニアの)人々が日々死んでいっています。そして私はそれを見過ごすことができません。さあ立ち上がって。“今すぐ”寄付を募りたいのです」この感動的スピーチによって彼女は立った5分間に100万ドルを集めた。このスピーチで言及されたマラリアによって、アフリカでは月に15万人の子どもが亡くなっている。そしてそれはわずか数ドルの蚊帳によって防ぐことが可能だ。
本書の著者サックス教授(20代でハーバードの終身在職権を得た俊秀)は、開発経済学の立場から途上国政府や国際機関にアドヴァイスしてきた経済学の“国境なき医師”。教授によれば現代は世界中の最貧困の人々を救うことができる人類史上初の時代なのだ。そしてそれは先進22ヶ国のGDPのわずか0.7%を拠出することで可能となる。
本書では教授の豊富な経験と統計数値を用いて「途上国は政情不安定なので援助してもムダ」「既に金額的には充分な援助をしている」などという先進国の誤解を喝破し、冷静に援助の必要性を説く。論理はあくまでクール(例えばキリスト教的人道主義などを持ち出したりするわけでもない)だがそのハートはシャロン・ストーンのように熱い。
本国アメリカでは理想主義者などと揶揄する向きもあるが、偉業を成し遂げた人は皆そのような中傷を受けるものなのだ。

「イースタリー著『エコノミスト 南の貧困と闘う』と併せて読もう」 2007-09-12
レビュアー:はにゃお(16人中14人が参考になったと回答)
貧困問題や経済開発に関心のある人にとっての必読の書で、出版された意義は大きいと
思います。しかしながら、理想主義に過ぎるという点は否定できないでしょう
(同時にそこが「売り」でもあるのですが)。
先進国が債務を帳消しにし、援助額を増やせば極度の貧困は終わらせられる、というのが
主な主張であり、先進国(主にアメリカ)の援助額の少なさと世銀・IMF等の援助政策を
批判しています。イースタリーも『エコノミスト 南の貧困と闘う』で世銀の政策を批判
していますが、その理由と処方箋がサックスの主張とは対立関係にあり、イースタリーを
併せて読むのと読まないのでは読後の感想に大きな違いがでることと思います。
世銀とIMFを同じミッションを持った機関であるかのように論じているところが
気になったのと、論点に対して本のボリュームがありすぎると感じた(ボリビア、
ポーランドのケーススタディは自分の業績の自慢話風)ので星1つ減点としました。

「貧困を診断し、治療する」 2007-04-17
レビュアー:読書好きサラリーマン(9人中6人が参考になったと回答)
著者が自ら国連に参画して練り上げたミレニアム開発目標に、自らアフリカに乗り込んで取り組む貧困削減プロジェクト。著者は決して、象牙の塔に篭って理想論を垂れ流す世捨て人ではありません。現場の実態と経済理論を踏まえ、病んだ経済を治療するための処方箋を提示する経済のプロフェッショナルです。
著者は、医学と経済学を比較し、経済学を学ぶ者に実践的な知識が欠けているとした上で、医師が患者を診断するように経済を診断するためのチェックリストを示します。そして、医師が患者を治療するように、それぞれの症状に沿った処方箋を提示すべきとし、これを「臨床経済学」と名づけています。
著者は、ボリビアのハイパーインフレーションを抑え、ポーランドの経済改革を成功に導きました。しかし、ロシアではポーランドと同じ手法が通用せず、経済理論で説明できない現場の実態に即した処方箋の必要性に気づきます。「貧困への処方箋」は、こうした経験に即して、アフリカの現場で必要な基礎的インフラを積み上げて生み出されたものです。
一定の資金を確保した後、自律的に回復したボリビアやポーランドと異なり、今回の処方箋はアフリカ大陸全体に及び、必要な資金も事業規模も桁違いです。資金の確保、事業の確実な実施の確保、その後の維持管理。著者の思いとは裏腹に課題は山積みです。アフリカに援助をする国際機関や欧米諸国は「要請主義」ではなく、自分達の都合で援助を配分するため、アフリカ諸国は貧困削減計画を立てても、与えられた枠以上の資金を引き出すことができません。
そのような厳しい現実に正論を貫いて向き合う姿勢には好感が持てますが、それで克服できるかどうか。例えば、いきなり大陸全体の計画を示すのではなくて、国ごと、地域ごとにもっと対象を絞って提案した方がいいのではないかと思いました。